ブラジル国内における暗号資産(仮想通貨)カードの決済総額は2026年5月に月間6億5600万米ドルに達し、前年同月比で2倍以上の規模に拡大した。相次ぐ新商品の投入が市場を牽引する一方、国内で事業を営む暗号資産サービスプロバイダー(PSAV)各社は、2026年10月末までにブラジル中央銀行へ営業認可を申請しなければならない。利用者の側でも、決済時の両替手数料やビットコイン(BTC)相場の下落による還元目減りに加え、日常の買い物ごとに発生する所得税の損益計算への対応が求められている。
決済手段の多様化を背景に、大手事業者によるブラジル市場への参入が相次いでいる。暗号資産取引所のBinanceと決済大手のMastercardは2025年10月1日、同国内でプリペイド式の「Binance Card」の提供を開始した。Binanceのラテンアメリカ地域担当副社長兼代表を務めるGuilherme Nazar氏は、「ブラジルは当社にとって極めて重要な市場であり、Binance Cardの導入は、すでにブラジルの利用者に提供している暗号資産決済ツールのラインナップを補完するものだ」と述べている。
プリペイド・信用供与・資産担保の3方式とBipaの自動清算ルール
ブラジル国内で流通する暗号資産カードは、決済の仕組みによって3つの方式に分かれる。第1の方式はプリペイド(前払い)またはデビット型で、利用者が店舗で決済した瞬間に口座内の暗号資産が必要な分だけ即時売却され、加盟店にはブラジルレアル(BRL)で代金が支払われる。第2の方式は従来のレアル建てクレジットカードと同様の仕組みで、支払いにはデジタル資産を使わず、利用額に応じたキャッシュバック(還元)のみをビットコインなどの暗号資産で受け取る形態だ。第3の方式は担保(コラテラル)付きクレジットカードで、利用者がデジタル通貨を担保として預け入れてロック(凍結)することで、毎月の利用限度額が設定される。
ブラジルのフィンテック企業Bipaが提供する担保付きクレジット方式では、預け入れた資産の種類によって利用限度額の算出比率が異なる。ビットコインを担保にした場合は評価額の50%、米ドルと価値が連動するステーブルコインのUSDTでは80%、ブラジルレアル建ての預託金では100%が限度額として承認される。ただし、担保として差し入れたビットコインの市場価格が25%を超えて下落した場合、システムが自動的に部分清算(強制売却)を実行する。与信枠と担保価値の比率を維持するために顧客の資産の一部が売却される仕組みであり、この自動売却によって利益が生じた場合は所得税の課税対象となるキャピタルゲイン(譲渡益)が発生する。
ポイント還元率や維持コストの条件も発行会社ごとに大きく異なる。Binance Cardは2026年6月1日からブラジル国内での還元ルールを改定し、月間利用額500レアルまでは1.5%、500レアル超5000レアルまでは2%、5000レアルを超える部分には3%のレアル建てキャッシュバックを適用している(月間の還元上限は500レアル)。一方、Bipaが提供するビットコイン還元プログラム「Satsback」は契約プランに応じて0.5%から1.5%に設定されており、月額料金は14.90レアルから99.90レアルとなっている。同社の「Proプラン」は月額49.90レアルで還元率1%・利用限度額最大20万レアル、「Maxプラン」は還元率1.5%・利用限度額最大30万レアルを提供する。また、Bitget Walletは2026年7月30日に「Bitget Wallet Card」向けの還元制度「Assetback」を開始し、ビットコインやトークン化された金(XAUT)、ステーブルコインのUSDCのほか、xStocksを通じたNVIDIA、Tesla、Google、S&P 500などの米国株・上場投資信託(ETF)のトークンを報酬として選択できるようにした。
もっとも、暗号資産の価格変動や各種手数料は、消費者が実際に手にする実質的なリターンを押し下げる要因となる。ビットコイン価格は2025年10月6日に記録した12万6100米ドルの最高値から、今週月曜日(12日)には8万1800米ドルまで下落し、累積で35%の下げとなった。こうした相場の下落に加え、業界の比較調査では、一部のカードで暗号資産をレアルに換金する際に約1%の交換手数料が課されていることが判明しており、約束された還元率が1%以下の場合は手数料によってメリットが帳消しになる。
ブラジル国内の暗号資産カードに関する主な数値・手数料・税制要件
- 月間決済総額:2026年5月時点で6億5600万米ドルを記録。
- 主なキャッシュバック率:Bipaはビットコインで0.5%〜1.5%、Binance Cardはレアル建てで1.5%〜3%(月間上限500レアル)。
- Bipaの担保別利用枠:ビットコイン預託額の50%、USDTの80%、レアルの100%(ビットコインが25%超下落した場合は自動売却)。
- 所得税の非課税枠:ブラジル国内の取引所を利用する個人は、月間の売却・決済総額が3万5000.00レアル以下の場合のみ非課税。
- 譲渡益への課税税率:国内取引所で月間上限を超えた利益には15%〜22.5%の累進税率。海外プラットフォーム利用時は非課税枠なしで年次計算により一律15%課税。
- DeCripto(暗号資産申告書):国内取引所以外で月間3万5000.00レアル超を動かした個人は、ポータルサイト「e-CAC」を通じた月次提出が義務。
連邦歳入庁による課税ルールと月次申告「DeCripto」の提出義務
ブラジルの税法上、暗号資産を使って商品やサービスの代金を支払う行為は資産の「譲渡(売却)」とみなされ、保有者は決済のたびにキャピタルゲイン(譲渡損益)を計算する義務を負う。ブラジル国内の取引所やプラットフォームを利用する個人の場合、1カ月間の売却・決済総額が3万5000.00レアル以下であれば所得税は非課税となるが、この月間上限を超えた場合は利益に対して15%から22.5%の累進税率が課される。一方、海外のプラットフォームを利用する場合は、2023年法律第14754号に基づき月間の非課税枠は適用されず、年間を通じて算出された利益に対して一律15%が課税されるほか、取得価額が5000レアル以上の暗号資産については種類ごとに年次の確定申告書へ記載しなければならない。
こちらもおすすめ: Bitcoin相場の変動要因と取引指標を客観的に読み解く分析手法
さらに2026年7月1日からは、2025年11月14日付のブラジル連邦歳入庁(日本の国税庁に相当する機関、RFB)規範訓令第2291号によって新設された「暗号資産申告書(DeCripto)」の提出義務が発効した。これは2019年の旧規則を置き換えるもので、経済協力開発機構(OCDE)が策定した国際的な税務透明性基準「CARF(暗号資産報告枠組み)」に準拠している。国内の取引所は顧客の全取引データを連邦歳入庁へ直接報告するが、海外取引所や分散型取引所(DEX)、個人間取引(P2P)を利用する個人は、月間の取引総額が3万5000.00レアルを超えた場合、翌月の最終営業日までに連邦歳入庁の電子ポータル「e-CAC」上でDeCriptoを毎月提出しなければならない。提出が遅れた場合は月額100レアルからの遅延損害金が科され、記載内容に誤りや漏れがあった場合は取引額の最大3%に相当する罰金が科される。
ステーブルコイン取引1兆1300億レアルへの拡大と中央銀行の規制期限
税務当局が監視の目を強める背景には、国内で把握されているデジタル資産取引の構造的な変化がある。連邦歳入庁が2026年7月に公表した統計によると、2019年8月から2025年12月までの間に申告された暗号資産の売買総額は1兆5800億レアルに達した。このうち約7割にあたる1兆1300億レアルをUSDTなどのステーブルコイン(法定通貨に価値を連動させた暗号資産)が占めており、国内の申告総額に占める割合は2019年の3.5%から2023年以降は80%超へと急拡大している。なお、立法面では、月間3万5000.00レアルの非課税枠を撤廃して利益に一律17.5%を課税する暫定措置令第1303号が提出されていたものの、2025年10月に連邦議会で審議未了のまま失効した。
カード発行事業者や取引所に対する監督権限は、2022年法律第14478号(暗号資産基本法)を具体化するために2025年11月10日に公布され、2026年2月2日に施行されたブラジル中央銀行決議第519号、第520号、第521号によって中央銀行へ一元化された。これらの規則は国際決済に外国為替規制を適用するとともに、顧客の預託資産と運営会社の自己資金を切り離して管理する「分別管理」を義務付けている。ただし、伝統的な銀行預金を保護する民間基金である信用保証基金(FGC)の補償対象には、暗号資産の残高は含まれない。また中央銀行は2026年10月9日に決議第599号を公布し、外国機関との間でUSDTやUSDCなどのステーブルコインを含む仮想資産取引に伴うポジション調整を識別するため、外国為替市場の特別取引テーブルに新たなコード「99516」を追加した。
為替関連の税制を巡っては、連邦政府が2026年2月、個人が月間1万レアルを超えて暗号資産を購入する取引に対し、従来の国際クレジットカードと同じ3.5%の金融取引税(IOF)を課す政令案を作成した。しかし、ブラジル暗号エコノミー協会(ABCripto)やABFintechs、Abracam、ABToken、Zettaといった業界団体が一斉に反発したことを受け、財務省のDario Durigan大臣は2026年3月にパブリックコメント(意見公募)の実施を延期しており、審査の再開や政令公布の時期は未定となっている。
今後の規制スケジュールとして、すでにブラジル国内で営業している暗号資産サービスプロバイダー各社は、2026年10月末までに中央銀行へ営業認可の申請手続きを完了させる必要がある。個人投資家向けには、2026年10月30日が9月分のDeCripto提出期限となっている。さらに、2026年9月23日に公布された中央銀行決議第588号および第589号に基づき、10月1日からは自己管理型(セルフカストディ)ウォレットとの間で1万米ドル相当以上の暗号資産を送受金する取引について、金融活動管理評議会(Coaf)への自動報告が義務付けられた。続く2026年11月6日からは、決議第589号の規定により、ブラジル国内の銀行および規制対象の金融機関が、中央銀行の認可を受けていない暗号資産事業者と取引関係を維持することが全面的に禁止される。
