傾斜角136度で恒星に逆行する惑星GJ 3090 bをジュネーブ大が解明
スイスのジュネーブ大学を中心とする国際天文学チームは、太陽系外惑星「GJ 3090 b」が主星の自転方向とは正反対に周回している事実を突き止めました。観測による立体的な軌道傾斜角の解析値は約136度に達しており、観測天文学の歴史において赤色矮星(M型矮星)の周囲を逆行軌道で周回する惑星が特定された初の事例となります。
この観測結果をまとめた論文は、筆頭著者であるジュネーブ大学天文学部の博士課程大学院生ヤン・カルテレ氏らの研究グループによって執筆され、2026年9月21日に学術誌Astronomy & Astrophysics Lettersへ提出されました。GJ 3090 bは地球の約2.18倍から2.2倍の半径を持ち、質量が地球の約4.5倍から4.52倍に相当する「サブ・ネプチューン」に分類される天体です。地球から見てほうおう座の方向へ約73光年の距離に位置しており、主星の極めて近い位置をわずか2.9日の周期で1周しています。
ラ・シヤ天文台の赤外線高精度分光器NIRPSによる公転面の特定
今回の極端な公転軌道を割り出すデータは、南米チリのアタカマ砂漠にあるヨーロッパ南天天文台のラ・シヤ天文台に設置された、口径3.6メートル望遠鏡の近赤外線分光器「NIRPS」によって取得されました。この天体自体は2022年1月1日にアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡TESSが主星前面を横切る際のわずかな減光現象を捉えたことで最初に検出されていたものです。
研究グループは、惑星が恒星の前を通過する際に自転によって生じる光の波長変化を捉える「ロシター・マクローリン効果」を詳細に測定しました。太陽より温度が低く可視光での輝きが弱い赤色矮星において、近赤外線の高い感度を持つ観測機器を活用した手法が、微弱なシグナルを精密に拾い上げる決定打となっています。
観測結果について、筆頭著者のヤン・カルテレ氏は「GJ 3090 bが大幅に傾いた軌道にあるだけでなく、恒星の自転方向とは逆向きに回転する逆行軌道を辿っていることが判明し、大変驚いている」と述べています。
同じくジュネーブ大学天文学部で研究に加わった博士課程大学院生のレナ・パルク氏も、アタカマ砂漠での観測装置が果たした役割の大きさを説明しました。パルク氏は「このような比較的小さな惑星において、惑星の軌道面と恒星の赤道面との間の角度を測定するために必要な精度を達成できたのは、NIRPSの赤外線領域における優れた性能のおかげである」と語っています。
主星の赤道面から136度傾いた軌道と惑星形成理論への問い
一般的に惑星系は、同一の原始ガスや塵の雲が重力収縮して誕生するため、中央の恒星と周囲を回る惑星群は同じ回転方向を共有します。私たちの太陽系でも8つの惑星すべてが太陽の自転と同じ向きに公転しており、太陽の赤道面に対する地球の公転面の傾きも約7度とごくわずかにとどまっています。
これまでに見つかった軌道が大きく傾いた惑星や逆行惑星の多くは、外側を回る巨大ガス惑星や連星系を構成する別の恒星による強い重力擾乱が原因であると説明されてきました。しかしGJ 3090 bの周辺探査においては、このサブ・ネプチューンの軌道をこれほどまで激しく狂わせるような巨大惑星や伴星の存在は一切確認されていません。
天文学の記録上、軌道のズレが70度を超える惑星を含む複数惑星系は他に5例しか報告されておらず、周囲に原因となる重力源が見当たらないGJ 3090 bの孤立した特異性は際立っています。
近隣に巨大天体が存在しない状況を受け、ヤン・カルテレ氏とロンドン大学クイーン・メアリー校のアンドリュー・ウィンター氏らは新たな仮説を組み立てました。形成初期の赤色矮星が、元の星の自転とは全く異なる向きを持った星間物質のガス円盤を後から捕獲し、その傾いた第2の原始惑星系円盤の中でGJ 3090 bが誕生した可能性が有力視されています。
論文の共著者であるジュネーブ大学助教のヴァンサン・ブリエ氏は「異なる傾きを持つ第2の円盤から惑星系が再構築されたという考えは極めて刺激的である。若い恒星を取り巻く環境が、私たちがこれまで想定していた以上に惑星の配置決定へ大きな役割を果たしていることを示唆している」と語っています。
仮説の実証に向けた主星の継続観測と大気特性の分析手法
力学モデルによる計算との整合性は高いものの、ジュネーブ大学のチームは、GJ 3090系で発生した軌道逆転の決定的な引き金について現段階では完全な直接証拠に達していないと指摘しています。第2の原始惑星系円盤の捕獲はシミュレーション上で最も確からしいシナリオとされているものの、同様の環境を持つ若い星の観測例を増やして検証を重ねる必要があります。
今後の調査方針として研究陣は、主星である赤色矮星の視線速度を継続的に監視することで遠方に潜む未発見の質量天体を完全に除外するとともに、追加の分光観測を実施してGJ 3090 bの大気特性をさらに詳しく絞り込む作業を進めていく予定です。
